EcoSmart Fire Magazine
Vol.2
トークイベント「暖炉のある建築」レポート
2024年6月12日『最高に美しい住宅をつくる方法』(エクスナレッジ)シリーズで知られる建築家・彦根明さんのトークイベントが行われた。彦根さんは、2023年にグッドデザイン賞を受賞した『雲仙温泉 雲仙宮崎旅館』のほか、店舗、社屋、個人宅など幅広いジャンルの設計やデザインを手がけている。イベントの進行役は、数多くの素敵な住宅を取材しているデザイン・プロデユーサーのジョースズキさん。ここでは、建築のプロフェッショナルの二人が、エコスマートファイヤー導入の裏話や最近高まる暖炉人気を語ったイベントの内容を紹介する。
ゆらめく炎は、心を豊かにする
「炎のゆらめきを見ていると、心が豊かになり、会話が弾み、お酒も進みます」と語るのは、建築家・彦根明さん。創業から100年近い老舗旅館『雲仙温泉 雲仙宮崎旅館』(以下・宮崎旅館)の全館リニューアル(建て替え)を手がけた際、特別フロアにあるラウンジ「ストリングス」にエコスマートファイヤーを設置した。
その場所は、ラウンジの中央にある約2.5m×約5mのテーブルの中央だ。多くの人が目にするところに、今日もエコスマートファイヤーの美しいオレンジの光は揺らめいている。
彦根明さん(以下・彦根)
彦根
私は「温泉建築家」と自称するほど温泉が好きなんです。宮崎旅館のリニューアルの総指揮をとった宮崎代表も、「ありきたりな旅館にしたくない」という強い思いがありました。
プランニングには約3年の歳月をかけたのですが、その打ち合わせの中で「火を見られる場所を作りたい」という意見が出てきたことが、エコスマートファイヤー導入のきっかけです。
ジョースズキさん(以下・ジョー)
ジョー
空間に炎を取り入れる人が増えているのも最近の傾向です。ただ、暖炉を設けたくとも、消防法上の制限や安全性の確保など多くのハードルが立ちはだかる。無事に設置することができても、メンテナンスや安全管理に時間と手間がかかるほか、問題点も多いですよね。
ジョーさんはクルマを中心としたライフスタイル誌『ENGINE』で、お宅訪問の連載「My Car&My House」を8年以上執筆している。1本の記事が100万PVを誇る人気企画に登場するのは、施主の希望を建築家の創造的な発想で実現させた、個性的で美しい住宅ばかりだ。
ジョーさんがこの1年間で取材した、12の個人宅のうち5軒に、薪をくべるタイプの暖炉があったという。最近の家作りにおいて、暖炉への関心がかなり高いことは間違いないようだ。
ジョー
暖炉には、炎のゆらめきを眺めたり、暖を取ったり、料理ができるなど、多くの魅力があります。ただ、設置にかなりの初期費用がかかりますし、薪を置くスペースも設けなくてはならない。さらに今の時代、薪が燃える薫りが近隣の苦情になることもあります。加えて、火の管理には細心の注意が必要で、掃除などメンテナンスの手間もかかる。楽しめる人はいいですが、多くの人にとっては少しハードルが高い。旅館となると、さらに制約が増えますよね。
彦根
はい。不特定多数の人が宿泊する施設ですので、安全性が何よりも大切。ですから、最初から薪で燃やす暖炉の選択肢はありませんでした。火を扱えるスタッフを育成し、常駐させなければならないですし、加えて消防法上の制約もありますから。
そのとき、彦根さんは、このプロジェクトでインテリアを担当していたan.a studio 斉藤敦子さんから、エコスマートファイヤーを紹介される。配管などの設備が不要で、断燃、断熱、防煙の制限が基本的になく、煤が出ないので、メンテナンスに手間はかからないので導入を決めたという。
ジョー
エコスマートファイヤーは、実際の炎を使っているのですが、安全性の制限などでデザインが制限されることはなかったのですか?
彦根
制限といえば、炎が出るバーナー中心の部分から、60cm部分に鉄板を入れた程度です。作り物の炎ではなく、実際の炎ですから熱があり、冬場は暖かな暖房にもなります。
ジョー
エコスマートファイヤーの燃料はバイオエタノール。薪の暖炉は炎を安定させるのが難しく、雑誌取材では結構苦労したことがあります。そんな時、エコスマートファイヤーなら、かなり楽だろうと思ったことが正直ありました。
さらにバイオエタノール暖炉は、水蒸気を発生させるので、空間が乾燥しすぎてしまうことがない。通常の換気がされていればよいのだ。
ここで、ジョースズキさんは、来場していた気鋭の建築家・五十嵐 理人さんを指名し、クイズを行う。五十嵐さんはエコスマートファイヤーについて、名前程度しか知らない。多くの人がエコスマートファイヤーに対して感じる疑問を「◎」「×」形式で回答いただいた。ここで会場は大爆笑に。以下、クイズの内容を要約して紹介する。
Q.
エコスマートファイヤーは、オーストラリアの会社か?
A.
「◎」。2002年にオーストラリアで生まれた、環境に配慮した暖炉のパイオニアブランド。トウモロコシやサトウキビなどを原料とした燃料・バイオエタノールは、燃焼しても煙や煤を排出しないため、煙突も排気も不要。場所を選ばず設置できるのが魅力だ。
Q.
エコスマートファイヤーの炎は、作り物?
A.
「×」。作り物ではなく本物の炎であり、空気の循環により起こる対流熱の力で隅々まで暖める。
Q.
エコスマートファイヤーの炎は、白い壁でも汚れない?
A.
「◎」。バイオエタノールは燃焼したとき、煤は発生しないので、白い壁でも汚れない。燃焼時に発生するのは、二酸化炭素と水分だけだ。加えて、一酸化炭素や有害物質を排出することは一切ない。水蒸気が発生するので、部屋全体の乾燥対策にもつながる。
Q.
本物の炎なら調理も可能?
バーベキューのようにマシュマロは焼けるのか?
A.
「×」。熱量はあるが、調理は一切できない。点火口に食品が詰まると、事故や故障の原因になることもある。
自然の風景と共存する、ゆらめく炎
ジョー
エコスマートファイヤーの炎は、オレンジ色をしています。焚火の炎と同じような「自然のゆらめき」が美しい。どうしてそうなるのか気になって、担当者に「機器の断面を見せて欲しい」と聞いたら、「そこは企業秘密です」と言われてしまいました(笑)。単純な金属の壺ではなく、様々な細工が施されているようです。
彦根
そうなんですよね。この自然なゆらめきは、他にはありません。ですから、決める時はエコスマートファイヤー一択でした。
これには、私が宮崎旅館のリニューアルで重視したのは、「自然」だったこともあります。旅館がある「雲仙天草国立公園」エリアは、1934(昭和9)年に日本で初めて国立公園に認定された地域です。その豊かな自然の中になじむように建物も内部も作り込んでいきました。
景観と共存し、その魅力を引き出すことに注力し続けました。宮崎旅館を訪れた人が「ここにしかない」体験ができることを念頭に、心地よく過ごしていただくことを考えたのです。
ラウンジからは、雲仙の雄大な自然風景が見られます。特に惹きつけられるのは、『大叫喚地獄』(だいきょうかんじごく)から噴き上がる100度近くの蒸気。雲のように常に形を変えています。
ジョー
実は僕も温泉好きなんですが、旅館の客室から大自然の中で湧き上がる源泉の湯けむりが見えるとは。本当に恵まれた立地ですね。
彦根
そうなんです。温泉でリフレッシュし、日中はその源泉が見せる自然のダイナミックな風景を楽しむ。そして、日没後は、エコスマートファイヤーの炎のゆらめきでくつろぐ。昼と夜の風景と空間をつなぐ存在が「噴煙や炎のゆらめき」なのです。みなさんテーブルの周りでリラックスしてくださっています。
高度に発展した現代社会に住む私たちには、自分自身と向き合う場が必要だ。なぜなら、過剰な情報と、高速で回転する価値観や社会に振り回されるように感じる瞬間が多々あるからだ。
そんなとき、ゆらめく炎を見ていると、人を追い立てるように流れていた時間のスピードが少しずつ落ちていき、やがて時間の流れがいつもより遅くなるようにも感じる。そんな流れに身を委ねることを多くの人が求めているのだろう。暖炉を設置する人が増えているというのも納得だ。
あなた自身が自分を取り戻すのは、どんなときだろうか。そんな切り替えの選択肢の一つに、「炎」があるのかもしれない……そう感じる、トークイベントだった。
建築家・彦根明さんが自宅に欲しいアイテム「Stix」
ステンレス素材を薪のように組み上げたようなデザインは、アート作品のよう。オブジェとしても使える存在感に心惹かれます。冬はリビングで、夏はテラスなどの半戸外空間に置き、炎を楽しみたいです。
Product
ライター
前川亜紀
撮影
森崎健一
建築家
彦根明
建築家
彦根明
デザインプロデユーサー/文筆家
ジョー スズキ
デザインプロデユーサー/文筆家
ジョー スズキ