EcoSmart Fire Magazine

火と人

Vol.7

菓子と自然、暖炉の安らぎ

火と人 Vol.7

伝統的な和菓子を展開する1872(明治)年創業の『たねや』。本州に40店舗以上展開し、素材本来の風味を生かした菓子で多くの人を魅了している。旗艦店は2015年にオープンした『ラ コリーナ近江八幡』。買い物、カフェが楽しめるだけでなく、自然と触れ合う体験価値も提供し、年間約300万人が来場している。そして今、注目を集めているのが、2025年に開業した『LAGO 大津』だ。この2つの店舗には、暖炉の炎がゆらめいている。ここではLAGO 大津が、菓子を通じて人々に提供する豊かな時間と空間の背景について、店長と広報担当者に伺った。

水、土、風、火…幸せは自然がもたらす

――『たねや』の本社もある旗艦店『ラ コリーナ近江八幡』は全国的に知られる存在になりました。2025年開業した『LAGO 大津』(以下・ラーゴ)も多くの人が訪れています。「水」をコンセプトに琵琶湖の水を守り、生物多様性豊かな森を目指していると伺いました。

店長・市川詩奈子さん(以下・市川):琵琶湖が眼前に広がり、時間ごとに移り行く自然の変化を感じられることもあり、多くの方にご来店いただいています。 湖を眺められることもあり、店内の茶屋には、レイクビューの席も設けています。オープン前は眺望が開けた窓側が人気になると思っていましたが、多くの人が集まったのは暖炉の前でした。3月と寒かったこともありますが、お客様は琵琶湖の美しさを見た後に、炎のゆらめきと暖かさを楽しんでいました。暖炉を導入したのは、社長の山本昌仁です。人が集まり物語が生まれる場所にしたいという思いが表れていると感じています。

広報・黒川志歩さん(以下・黒川):ラーゴの敷地に入ると、土と草の香りに包まれ心が安らぎます。少し目線を上げると、木と湖が歓待し、ツタがからまる店舗入り口から中に入れば、炎の暖かさに包まれるような感覚があります。

自然は水・土・風・火で構成されると言われますが、人間の幸せは自然がもたらしてくれると感じます。

市川:ラーゴの建設前は地面にコンクリートが打たれていましたが、建設にあたりコンクリートを剥がし、土を耕し植物を植えていったのです。約15,000平方メートルの敷地全体を「琵琶湖の森」として再整備しました。

黒川:自然の力は強く、森は着々と育っており、訪れるたびに表情が変わります。森の監修は、里山環境プロデューサーとして知られる写真家・今森光彦さん。スタッフだけでなく、市民の皆様と「鳥や昆虫が住みやすい環境を整え、豊かな生態系を取り戻していきたい」という思いで取り組んでいます。

市川:ですから、生き物がやってくるととても嬉しくて……5月にカエルが初めて鳴いた時は、スタッフみんなで喜びました。開店以来、全国からお客様がお見えになるのは、生物多様性や持続可能性を体験できることも、理由のひとつだと思っています。

営業本部 統括部 広報室 室長 黒川志歩さん(写真左) 1995年、近江八幡市生まれ。2014年入社。店舗での販売や店長などを経験し、2020年にから現職。 LAGO 大津 店長 市川詩奈子さん(写真右)1990年入社、近江八幡市生まれ。2013年入社。『ラ コリーナ近江八幡』勤務を経て現職
導入しているのは、横長の美しい炎が空間を彩る『XL1200』。バイオエタノール暖炉は煤も出ず、煙突や換気設備が不要。着火や消火、メンテナンスも簡単だ。

菓子作りから広がる、自然と共生の物語

――ラーゴは太陽光など再生可能エネルギー由来の電力を使っており、二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを目指していることがわかります。導入しているバイオエタノール暖炉『エコスマートファイヤー』の燃料も「再生可能資源」であり、環境負荷が低いです。

市川:はい、存じております。ラーゴはカーボンフリーだけでなく、ゼロウェイスト(ゴミを出さないこと)も目指しており、たねや全体でも環境負担の低減やフードロスの削減に取り組んでおり、工場で出た食品残渣を土に混ぜた「たねや循環堆肥」はラーゴの琵琶湖の森でも使用しています。

黒川:私たちが環境負荷を考えるのは、お菓子作りが自然と共にあるからです。農家さんが原材料となる小豆や小麦を育て、私たちが水や火を使い加工していきます。お菓子作りは、自然と共生している仕事です。

市川:お菓子作りにたくさんの水を使うこともあり、ラーゴは水について考える店舗でもあります。琵琶湖が目の前にあることもそうですが、敷地内に川を流し、手押しポンプを設置し、水の循環について考える機会を提供しています。

黒川:私たちと琵琶湖のつながりは深く、長きにわたり環境保全に取り組んできました。2025年8月6日、大阪・関西万博「BLUE OCEAN DOME」Evening Talksにたねやの社員が登壇。「見えない水、感じる命 ~琵琶湖から未来へつなぐ4つの物語~」を発表しました。

敷地内には小川があり、水は水再生センターから引き込んでいる。処理水の温度は、夏は冷たく冬は暖かい。ラーゴはこの温度差を熱交換し空調に使っている

黒川:建材も環境負荷の低いものを使用し、例えば敷地内の道の舗装材は、コンクリートに二酸化炭素を吸収させ固定化する「カーボンプールコンクリート」を使っています。

取材時(2025年7月)は、植栽はオープン以降少しずつ成長しており、数年かけて一面が緑に覆われる予定だ。生物多様性を健全に保つため、里山環境に習った農的管理が行われている。
琵琶湖を渡る風が心地よい。ここ、近江地方は風光明媚な場所が多く、「近江八景」と言われるスポットが点在する。ラーゴでは近江八景をモチーフにした商品も取り扱っている。

市川:自然に負担をかけないことを意識するのは、お菓子の素材が自然の恵みであることや、グループ会社に農業生産をする会社(キャンディーファーム)があることも大きいと思います。

黒川:加えて、代表はじめ、近江八幡で生まれ育った人が多く、地元愛が強い。琵琶湖の周りの人々は、とても水を大切にしています

集落の中に川が流れている『針江(はりえ)生水の郷』をはじめ、水と自然に感謝し、学ぶ環境の中で成長してきましたから。

地域と共に発展していく

ーーラーゴは琵琶湖とそこから広がる文化の発信基地でもあります。

市川:店内にはたねや創業の地・近江八幡の象徴的である近江商人の天秤棒が飾られています。近江商人といえば、売り手・買い手・世間の全てが満足する「三方よし」の商いを追求しました。この精神は私たちの中にも根付いています。

黒川:地元のアーティストの方とのコラボレーションもしており、ロゴを手掛けたのは、滋賀県甲賀市にある『やまなみ工房』の𠮷田ひよりさん。店内にディスプレイされているのは大津市のガラス工芸作家・神永朱美さんの作品です。

市川:地元の成安造形大学(滋賀県大津市)の学生の皆様とコラボレーションし、近江の風景を和菓子に落とし込んだお菓子『近江八景』を開発し、限定で販売しています。

近江商人は行商を基本としていた。地元の品物を売ったお金で商品を仕入れ、帰りに別の場所で販売し利益を上げたことから、「近江両天秤棒」ということわざも生まれた。
ガラス工芸作家・神永朱美さんの作品に飾られている植物には、琵琶湖の森の植物を使用している。
店内の提灯は、京提灯の老舗・小嶋商店が制作。提灯には和の模様やロゴが手作業で描かれている。

市川:また土日限定ですが、『大津港』とラーゴ近くの『におの浜観光桟橋』をむすぶルートで『LAGOクルーズ』が走っています。ラーゴで湖畔の自然を体験した後は、琵琶湖を“湖上”から楽しんでいただきたい思いから、誕生した新航路です。

黒川:多くの人でにぎわっており、嬉しく思っています。運行する船を手掛けたのは、滋賀県で唯一の造船所・杢兵衛造船所(もくべえぞうせんしょ)です。片道約15分の旅の間に、甲板に出て風や光を感じてみてください。

――ラーゴにいると、古の豊かな自然の風景と、琵琶湖とともに発展してきたさまざまな文化を感じることができる。湖と暖炉の炎を見つめていると、人は水と火とともに、文化、技術、社会を発展したことがわかる。美味しいお菓子と共に、重ねてきた歴史と時間を味わいながら、心満たされるひとときを過ごしたい。


LAGO 大津

住所:滋賀県 大津市由美浜4番地
営業時間:9:00~18:00(CHAYAは~17:00)
休:1月1日、びわ湖大花火大会開催日

https://taneya.jp/lago/

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