EcoSmart Fire Magazine
Vol.9
暖炉が温める、環境と共存する家
「コンパクトな空間に暖炉は生きるのか」その答えがわかるのは、建築家・五十嵐理人さんの自宅『家の躯体』だ。敷地面積45.06㎡、建築面積31.40㎡の東京らしい家の扉を開けると、EcoSmart Fire『Ghost』のオレンジ色の炎がゆらめいていた。
建築家・五十嵐理人さんの自宅兼事務所であり、代表作でもある『家の躯体』は、東京の住宅街にあるコンクリート打ちっぱなしの建物だ。ハードな外観に圧倒されながら扉を開けると、まるで、生き物のぬくもりを思わせるような、柔らかな暖かさに包まれる。
「外観はコンクリートとガラスですし、今日は気温も低いですから、この暖かさは意外に思いますよね。寒いと覚悟していたら、そうではなかったというギャップを感じる人は少なくありません。人に寄り添うような柔らかい暖かさは、バイオエタノール暖炉EcoSmart Fireによるものです。冬場は寒くなってからも、エアコンを使う機会はほとんどありません」
この『家の躯体』は、一般的な住宅で用いられる断熱材を使っていないという。
「夏の暑さについて聞かれることもあります。意外かもしれませんが下の階はそんなに暑くはありません。実際エアコンはそんなに使わないのです。それは、自然の仕組みを上手に使って設計をしているからです。建物は、7枚の床が連なる吹き抜け構造です。熱気が上昇する性質を利用し、最上部の窓から暖気が抜けるようになっています。だから、真夏であっても1階は涼しさを保つことができるのです。正面から見ると真四角に見えますが、上部は凸のような形をしており、抜けを作っています。この抜けが風を通し、窓を開ければ室内に空気が巡ります。日射についても西側(道路側)に大きな開口部を設けていますが、直射日光が厳しい南にはほぼ窓を設けていません。これにより、直射日光による暑さの影響を低減しています」

夏の暑さを考慮した建物は、冬の寒さが厳しい。壁面が日光により温められるとはいえ、一般的にはコンクリート打ちっぱなしの住宅は底冷えしやすいと考えられている。
「エアコンは空気が乾くのが苦手であまり使っておらず、冬は電気ストーブを使っていて、ある時、EcoSmart Fireを紹介されました。暖炉は物自体が大きく、邪魔になるなと感じていて、設置することに迷いはありました。それに、暖房器具としての性能も未知数だと思っていたのです。半信半疑ながらも設置したところ、想像以上に暖かく、日常の暖房として十分に機能していると感じました。加えて、炎のゆらめきは美しく、いつまでも見ていられます。今年、2年目の冬になりましたが、EcoSmart Fireは、暮らしも心も豊かにする存在だと感じています。それに、煙も煤もでないので、煙突や排気設備が要らず、使い勝手がいい。スペースが限られている東京の住まいにも合うと思います」

『家の躯体』は、玄関を開けると仕事場があり、階段を上がるとキッチン、私室へと繋がっていく。パブリックからプライベートへのグラデーションが自然かつ緩やかなのも特徴だ。このように、オンとオフの区別も、上下左右の区切りもなく、一続きの空間であることも、EcoSmart Fireの暖房効率を高めているようにも感じる。
「一つの暖炉が発する熱が家全体に広がるのもここの家に合っています。また、暖かさもさることながら、この家の構成ゆえに、いろいろな場所、角度から炎のゆらめきを見ることができることも気に入っています。改めて、この家の特徴である7枚の床の機能面についてお話しします。床は段差を設けながら繋がっているので、床でありながら、椅子として使えるところもありますし、机や棚としても使うことができます。この構造には、私と妻の特に個室は必要ないという価値観と、家の使い方と広がりを追求したいという考え方が表れています。使い方に広がりがあれば、長く建物を使うことができる。今、住み手がいない家が社会問題になっています。たとえ有名建築であっても用途を建てた人が住むことに限定しているために、使われないまま取り壊されてしまうケースも多い。これはとても残念なことだと思うのです。
せっかく設計するのだから簡単に壊さずに、建てた人はもちろん、その次の代や住まい手が変わっても快適かつ便利に、長く使える建築になればよいと常々思っています。それに必要なのは、変化を受け入れることができるおおらかさと、変化を受け入れても変わらない空間の力ではないでしょうか。変化を柔軟に受け入れることができれば、取り壊されることなく使い続ける可能性があるはずです。住宅としてはもちろん、事務所、カフェ、ギャラリー、美術館、図書館などに転用できるなら、オーナーが変わっても建物を使いたいという人は出てくると考えています。もちろん、依頼を受けて、クライアントのために設計をしていますが、常に“おおらかさ”と“変わらない空間の力”を意識しています」

その考えが最も表れているのが、自宅でもある『家の躯体』だ。“部屋”がなく躯体の上に生活する場所を設えただけだから、アレンジも自在だ。考えを聞くと、この建物が持つ、何でも受け止める力を感じる。許容力がある箱だから、ここには大量の蔵書のほか、アートやオブジェ、名作家具など、癖が強いアイテムが主張せずに調和しているのだ。
「好きなグッズや家具を楽しみながらも、気持ちよく暮らしているのは、箱そのものに包容力と強靭さがあるからでしょう。また、壁一面にある本のノイズが、多くのアンバランスを吸収してくれていることもあると思います。内装も、コンクリート、石、スチール、レンガ、木など、できるだけ自然素材を採用しています。使ううちに“劣化”する人工物と異なり、自然素材は時間の経過とともに風合いを増してきて、表情も豊かになっていきます。それに、愛着も湧いてきますから手入れをするのも楽しいです。人の体はもちろん、車も電子機器もメンテナンスは必要ですよね。建築だけ“メンテナンスフリー”を求められますが、そんなものはありません。愛着を持って手入れして長く使う。それはとても大切なことだと思います」

五十嵐さんの作品の共通点は、環境と共存する多目的な建物(家)なのだ。環境を重視する五十嵐さんのワークスペースには、多くの植物があった。
「私の仕事は、完成すれば形を変えることがない建物を作ることです。でも廻りの環境は刻々と変わる。その変化を感じることができる建物をつくりたいと思っています。高気密高断熱で完璧に整えられた人工的な環境ではなく、日々の変化を享受できることこそ本当の豊かさだと考えています。室内に植物が多いのも、そうした思考の表れかもしれません。日々環境と応答しながら成長・変化する植物にとても興味があります」

この家にいると、光の入り方で時間がわかる。西側の広い開口部から、光が入ってくるからだ。時間や天気がわかるだけでなく、季節の移り変わりも感じる。
「2年前にここに住み始めてから、太陽の動きと暮らしが今まで以上につながるようになりました。ちょうど2回の季節を経験し、室内にいながら、光の入り方・角度で季節や天気がわかるようになってくるのです。“春が来た”とか“これから雨が降りそうだ”などなど。おそらく、感覚が研ぎ澄まされているのでしょうね」
五十嵐さんは、環境と建築を一緒に思考している。自然に近い暖房器具・暖炉を今後、設計する建築で設置するとき、どのように設えるのだろうか。
「どこからでも火が見えるようにすると思います。床に埋め込むように設置してもいいですし、ポータブル形式にして、好きな場所に置けるようにしてもいいかもしれません。狭い空間でも暖炉があると生活が豊かになる。また、煙突が必要な薪暖炉のように、場所が固定されないのもいい。バイオエタノール暖炉は、それを実現させてくれると感じました」

五十嵐さんが設計する建物は、環境と共存する多目的な建物(家)なので、建物の可能性を無限に考えることができる。未来に想像を広げ、家を味わうように楽しめる。これは、五十嵐さんの中に、豊かな余白があるからだろう。当然、この家には友人や知人のみならず、メディア、学生たちも来ているという。おそらく、多くの人は、可能性と余白に魅了されるのだ。訪れる人の視野を広げ続けるこの家は、今後どのように進化していくのだろうか。
インタビュアー
前川亜紀
撮影
森崎健一
建築家 一級建築士 / 管理建築士
五十嵐理人
建築家 一級建築士 / 管理建築士
五十嵐理人